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『天の敵』

天の敵

昨日はシアターイーストにてイキウメの『天の敵』を観劇。

過去公演の短編をブラッシュアップしたものという事ですが、私は初見なので、今回も面白そうだなーと、いつも通りワクワクドキドキでした。

今回はイキウメにしてはめずらしくしっかりセットがあるタイプ。ただ、それでもワンシチュエーションに収まらずに自在に時代や状況を観る者に想像させるのは流石だなと。

 

そう、この物語は過去と現在を行きつ戻りつして展開していく。

菜食の人気料理家・橋本という男に取材を申し込んだジャーナリストの寺泊が、見た目は若いが「今年で122歳になる」という橋本の過去を聞く形なのだけど、初めは疑心暗鬼の聞き手だった寺泊がそのうち共に旅をする相棒の様にツッコミ役として動きだしていくのが面白かった。

 

内容は…思っていたより私には重くて辛いものだったけど。

 

冒頭の音が既に不穏。うわぁイキウメっぽい…でもきっとこの後、拍子抜けするくらい笑いをぶち込んで来るぞ…という期待を裏切らない『3秒クッキング』(笑)。マイペースなレアキャラに徹している浜田くんと、今回初めて観た村岡希美さんのツッコミの間の絶妙な事!

 

こういう女優さん大事!特にイキウメの舞台には絶対必要!

 

という訳で初めのうちはまだ楽しい気持ちで観ていたし、菜食の素晴らしさを登場人物達に語らせつつも逆説的に皮肉を交えて行く感じかなーと思ったり、「食」に関してのフェイクニュースにいちいち踊らされる人々ってやつに自分を見る様で胸が痛かったり、「ラーメンと缶コーヒー」を否定する訳ではないんだなぁと安心してみたり、そんな風に「普通に」興味津々でいたのです。

 

橋本の、あの告白を聞くまでは。

 

あの時、一気に背中を走ったゾッとする気分。突然、一線を越えた感覚。

それも忘れられないけど、やがてそれに慣れてしまう事、何度も笑ってしまう場面を持ってくる事、おぞましさとは別の哀しみや苦しみ、葛藤や絶望を突き付けてくるバランスの妙。

 

観ている自分だけではなく、舞台上に「それを知ってしまう」寺泊という存在がいる事が、余計に辛い。彼は難病に冒され余命数年という状況で、それを知るのだから。

よくもこんな残酷な脚本を…!と、胸がかきむしられそうでした。

 

イキウメの『太陽』を観た人なら、思い出さずにはいられない内容でもあったと思います。「吸血鬼」というモチーフも、「科学」が追いつかない絶望も。

 

それでも、決して悲劇としてまとめない意志を感じるのが救いでした。

それを選択しない人間は確かにいたし、ラストの寺泊夫妻の姿は切ないけれど、光の様に私には思えました。そりゃあ、そこまでは描かれていないし、彼がこの後どうするのかなんて、観たものの想像に任されているだけだけど。

 

ただそうやって自分の望みを寺泊に期待する事も私のエゴに過ぎないと思ってしまうのが辛い。イキウメ史上、最もキツイ話でした。

 

この物語には橋本の他に時枝という「完全食」を探求する人間が登場するのだけど、その存在がまた角度を変えて「食」について考えさせてくれます。

彼はやがて「不食」に辿り着き、実践し、完全に「食」から解き放たれるが…。

 

「菜食」「単一食」「バランスの良い食事」「ラーメンと缶コーヒー」そして「完全食」…そのうちの何が正しいのか、どれも間違いではないのか、分からなくなってしまう。

 

老いと死への恐怖、若さと生への執着、倫理とは。生きる意義とは。

 

内包するテーマが多すぎて、ずっと考えさせられています。

 

TV・映画・舞台 comments(0) - ノリアン
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